Webディレクター解体アドベントカレンダー5日目の記事です。昨日は企画の第一歩は調査・分析であり、企画の大部分がここで決まってしまうと書きました。今日はこの調査分析について、定量と定性の違いを中心に概要を説明します。
ユーザーのことは理解できない
調査・分析は定量でも定性でも、ユーザーを理解するために行います。自分たちが作っているサービスの顧客が誰で、どんな人がどんな目的でいつどのようにサービスを使ってくれているのか。使うことをやめたり、認知していても使わない理由は何なのか。理解しておきたいことは無数にありますが、少しでもユーザーのことを知れるように、一歩でも近づけるようにジリジリとにじり寄っていくのが調査分析です。
そもそも、本来ユーザーのことを100%理解することなんて不可能です。他人のことを全部わかってるなんて言うやつ、絶対信頼できないじゃないですか。人間はそんなに単純にできてないし、本当の意味で理解することなんてできない。たまにユーザーの気持ちを忘れずに〜とか言う人いるけど、絶対忘れるから。そもそもあなたの気持ちと他のユーザーの気持ちは必ずしも一致するわけじゃない。自分はユーザーのことを理解できていないという認識から始める必要があるし、どんなに調査分析を頑張ったところで100%理解することはできないというある種の諦観が肝要だと思います。
定量調査でも定性調査でもどちらもそうなんですが、調査分析というのは複雑でカオスなユーザー心理を単純化してデフォルメして、人間が理解可能にする行為なんですね。データ分析をする時に、ユーザーの行動ログ1件1件から離脱率とか再訪率みたいな人間が理解しやすい数字に変換してユーザーの行動を理解しようとする。ユーザーインタビューをする時に、インタビュイーの表情や仕草から主観的に何かを読み取って言語化して他の人に説明できるようにする。どちらも本来はもっと沢山のカオスな情報がある中で、データを削って単純化してそこに意味を見出すわけです。だからどうしてもディテールは削ぎ落とされてしまう。
ユーザーのことは100%理解できないし、理解できるのは単純化して理解可能になったデータや言語化されたユーザー心理だけ。でもだからこそ少しでも理解に近づけるように、あの手この手を駆使して、定性と定量の両面で、マクロに俯瞰したりミクロに寄ったりしながら調査と分析を繰り返していく必要があるわけです。
定量調査と定性調査
定量が数値化できるやつで、定性がそれ以外です。知りたいことに応じてそれぞれを使い分けながら調査を進めていきます。
定性調査といえばユーザーインタビューを思い浮かべる人が多いと思いますが、テキストで綴られる意見や感想を読むのも立派な定性調査です。
実際インタビューを日常的に行うのは大変です。まず対象となるユーザーを探してお誘いするリクルーティングから、実際に会場まで来ていただいて同期的に行うインタビューまで複数のステップを踏む必要があり時間もかかります。一方お問い合わせやフィードバックフォームから届いたユーザーの意見や、SNSなどで語られるサービスの感想は、比較的簡単に日々触れることのできる定性情報です。
定量調査で一番身近なのは日々Google AnalyticsでサービスのPVやセッション数を追いかけたり、エクセルで売上やコンバージョン率のグラフを見たりすることだと思います。Webサービスのディレクションをする上で、こうした数値を見たことがないという人はいないでしょう。そういう意味では誰もが日常的に接している情報だと思いますが、ただ日々上下するPVのグラフを眺めているだけではユーザー理解に繋げることはできません。
定量情報を見る時には漠然とグラフを眺めるのではなく、何を知りたいのか自覚的になることが重要です。中期的な成長トレンドが知りたいのか、特定ページ特定箇所の昨日のCTRが知りたいのかで見るべきものが変わってきます。これは定性調査でも言えることですが、マクロとミクロそれぞれの視点を意識的に切り替える必要があります。
マクロとミクロ
視点の切り替えを行いながら両方の視点から調査を進めていくのが理想的ですが、最初にまず行うべきはマクロな調査です。既存のサービスであれば今現在のサービスが置かれているポジションや、サービスが提供している一番コアな価値が何かなど、マクロな視点でサービスの全体像を捉える必要があります。新サービスを作る前なら、市場状況の把握からユーザーニーズの調査から始めるでしょう。そうして全体像を捉えてから、徐々に解像度を上げてディテールを詰めていく。それが一般的な進め方です。
まあでも、順番は何でもいいです。いきなりディテールから入ってマクロに戻ってもいい。大事なのは両方の視点があること。そしてどんな目的でどの辺の視点で何を調べようとしているかに、常に自覚的であることだと思います。
定性と定量、マクロとミクロ、それぞれの軸に主な調査方法をマッピングしてみました。こうして見るとユーザーアンケートの立ち位置がユニークですね。自由記述で定性情報が、選択式の設問で定量情報が得られ、設問によってマクロにもミクロにも振ることができる。アンケートは多くのサービスや製品で行われていますが、設計次第でどうとでもできる。正に定性と定量、マクロとミクロのどの視点で何を調べるのかという目的意識が問われるやつです。やり方によっては毒にも薬にもならない情報しか得られなかったりするし、アンケート設計は調査分析スキルの腕の見せ所ですね。
調査・分析の各手法については、明日や明後日の記事でもう少し掘り下げてみようと思います。