妹のホームページを作った

僕には3つ下の妹がいて、刺繍アーティストをやっている。一昨年の夏に父が亡くなって、福岡に帰ってきた。実家の2階に住み着き、元々母の寝室だった部屋をアトリエと称して日々針と糸でチクチク作品を作っている。その様子が先日、地元のテレビ局でも紹介されていた

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多くのアーティストがそうだと思うけど、なかなか儲かるような仕事じゃない。妹もバイトしないで生活していくのがやっとの状況だと言う。以前にも、何度か相談されたことがある。その度に、もう少しネットを使ってみたらとか、自分のビジネスモデルを考えてみたらとかアドバイスをしたものの、どうもピンと来ないようで、たまに声をかけてもらったお店で展示会をさせてもらったり、声をかけてもらった会社さんと商品を制作したりして、作品を作り続けていた。

今年の1月、僕が会社を辞めて独立することを決めてさて何をやろうかと考えていた時に、妹の仕事を手伝おうと思い立った。会社員時代は「表現する人を応援する」というテーマに拘っていて、クリエイターの方々がWeb上の表現で収益をあげられるような仕組みづくりを進めてきた。会社を辞めて独立してからも、そのテーマを諦めるつもりはなかった。

これまで小説家や漫画家の方々向けのサービスばかりやってきたけど、自分の身近にいる作家のことは見て見ないふりをしていた。でも偉そうに表現する人を応援したいとか言っておいて、それでいいのかと思い始めた。見知らぬ人たちを応援するのもいいけど、自分の妹がたいして食えてないのにそこを放っておいてどうするんだと。

それで、妹に声をかけた。一緒にやるかと言うと、やると言う。本気でやる気があるのかと聞いたら、あると言う。じゃあやるかということで、プロジェクト佐和子が始まった。

プロジェクト佐和子

最初はまず、ビジネスに対する考え方をすり合わせるところから始めた。誰にどんな価値を提供するのか。どういうテイストでどんなターゲットに向けたどんな商品を作ってどんなふうに売るのか。僕もコマースの経験がないから手探りで、妻にも会議に参加してもらって三人でああでもないこうでもないと話し合った。

検討を進める中でコマースやオンラインショップ構築の経験はないけど、これは普通のWebサービスを作ったりビジネスモデルを考えるときとそう変わらないんじゃないかと思い始めた。そこで毎度おなじみのAARRRモデルを用いて、妹の状況に当てはめてみた。

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新規獲得(Acquisition)のチャンネルはあった。よく展示会を開催したりしていて、そこに来てくれたお客さんが直接刺繍の施された作品を手に取って見てくる。そして作品を気に入ってくれた人が買ってくれる。これがActivationに該当するだろう。そして洋服や帽子などの身につける作品が多いので、買った人が着てくれるとそれが友達や周りの人の目にも触れる。その刺繍かわいいね、どこで買ったの。そんな会話が行われているのかわからないけど、展覧会にお友達を連れてきてくれる方も多いそうで、数は多くなくてもReferralも機能していそうだ。

だけど、継続を意味するRetentionが弱かった。定着と再訪の仕組みがないのだ。展覧会や商品企画は単発でそれぞれ別個に行われるから、ファンになってくれた人が定着する場所がほとんど無かった。

収益化(Revenue)も課題だった。展覧会や店頭での販売は会場やお店に販売手数料やマージンが発生し、その割合が小さくなかった。1つ1つ自分の手で刺繍を施す作品は大量生産ができず、1点の制作にも多くの時間を要するが、マージンを払っていると利益がほとんど無くなってしまうのだ。

そこで自分の作品を気に入ってくれた方にもう一度訪れてもらうための場所、そして直接その人たちに商品を買ってもらえる場所をWeb上に作ることにした。

ホームページ

数ヶ月に及ぶ準備期間を経て、先日完成して公開した。昔懐かしい、所謂ホームページだ。

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https://sawakoninomiya.com/

作品の説明やそこにかける想いはnoteに書き、作品の写真はInstagramに載せて、オーダーメイドはGoogleフォームで受付、商品はBASEで販売することにした。既存のサービスを使う方が効率的だし、それぞれのサービスに集うユーザーが沢山いるから新規獲得のチャンネルにもなり、フォローしてもらえればリテンションにもなるだろう。

ホームページはそれらをつなぐハブと位置づけ、ここに来れば全ての最新情報が一覧できるという場所にした。各サービスに投稿した情報をRSSやAPI経由で取得して表示している。最初はかっこいいかと思ってNext.jsで静的に作ろうとしたけど、難しすぎて挫折してしまった。仕方なくPHPで書き直し、アクセスのたびに毎回APIを3つも叩いてるので少し重いのが玉に瑕だ。

商品はファッションブランドのコレクションみたいに、毎回テーマを持たせてオンラインで展示をすることにした。先日妹がカメラマンさんとモデルさんと撮影してきた写真や動画を並べて、オンライン展示会のページを作った。さすがプロの仕事。素材がいいのでこのページはめちゃくちゃ見栄えがする。

https://sawakoninomiya.com/exhibition001.html

BASEで販売している商品の物撮りはスクリーンや照明を揃えて実家でやったけど、こちらは素人感が満載で改善の余地があるし、僕の素人デザインも野暮ったい。しかしそれがスタート地点だ。Webサービスと一緒で、ここから日々どう運営して改善していくのかが問われるのだろう。特に妹の仕事はお客さんと直接向き合う仕事だ。オーダーメイドでその人をイメージして一からデザインすることもあるし、自分の手で一針一針心を込めて商品を仕上げていく。一針一針、一人一人を大切にする場に育てていって欲しい。

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