顧客の声を“聞こえる化”するためにHearable株式会社を作った

今日、法務局で登記の申請をしてきた。会社を作るのは1年ぶり2度目になる。まさかこんな短期間に、いや期間の長短に関わらず、また会社を作ることになるなんて、最初は思っていなかった。

去年の6月に二宮企画株式会社を設立して、色々な会社さんから声をかけていただいて、色々な企画の仕事をさせていただいた。最初は仕事を全うするのに精一杯だったけど、だんだんと慣れてきて、また新しいことがしたくなった。

それで去年の年末、村田君に声をかけた。はてな時代に同じチームでサービス開発を共にしたデザイナーで、彼も僕と同じ年に会社を辞め、自分の会社を作っていた。一緒に新しいサービスや新しい事業を作ろうと声をかけると、お互いにお金を出し合って本気でやりましょうよと、僕よりもアグレッシブなことを言ってきた。こいつマジだと驚いた。

2人でアイデアを出し合う内、村田君が提案してきたサービス案の筋が良さそうで、それをやってみようということなった。まずは一緒に開発してくれるエンジニアを探そうと何人かに声をかけたら、かつて同じチームでサービス開発を共にしたtくんが最初に手を挙げてくれた。

3人でLPを作ったりプロトタイプを作ったり、ターゲットとなるユーザー候補にインタビューしたりと試行錯誤する内に方向性が見えてきて、サービス名を考えることになった。いくつも出し合った候補の中に、1つだけ全員一致で投票した名前があった。それが「Hearable(ヒアラブル)」だ。

顧客の声を“聞こえる化”する

「Hearable」は「聞く(hear)」に「できる(able)」が付いた言葉で、「聞くことができる」や「知覚可能な」という意味だが、最初に見た時にこれは「聞こえる化」だと直感した。秘められた声の聞こえる化。それが我々の描くビジョンそのものだと。

僕と村田君は、はてな時代に同じチームでWeb小説投稿サービスの立ち上げを担当した。Web小説は初めて挑戦する分野で、最初に既存のサービスで活躍されている作家の方々にインタビューして、普段の執筆の様子や課題に感じていることを教えてもらった。サービスリリース前にはLPを作って事前登録を募りながらサービスに期待することを募集し、リリース後は毎日届くフィードバックのすべてに目を通した。その後もことあるごとにユーザーさんにインタビューをしたりアンケートをとったり、フィードバックは常に直接自分のメールボックスに届くようにしていた。

インタビューのやり方や結果の分析方法は我流だったけど、チームで意見を出し合って工夫しながら色々な方法を試した。もちろんKPIを設定して定量情報も追っていたけど、同じくらい、いやそれ以上に定性情報を重視していた。新しいサービスを立ち上げる時や新しい挑戦を始めようという時は特に、数字を追っているだけじゃ新しいものは生まれない。ユーザーや顧客の候補になる人たちの様子を観察し、話を伺って、心の中の秘められた声に耳を傾ける。そうした行程が必要不可欠だ。

定性調査における属人性

会社を辞めて独立し、二宮企画株式会社で受けた仕事も新サービスの立ち上げや既存事業の大きな戦略転換など、ゼロイチの価値を生み出すものが多かった。その場合はまずユーザー調査から始める。この1年でアンケート調査やインタビュー調査を何度も行った。複数の会社さんの依頼でそれぞれ別の調査会社さんにお願いして、調査設計や結果分析をやったり、時には自分で実査までやった。特に会社員時代はいつも自分がインタビュアーだったから、調査会社の方が主導するインタビューに参加させていただくのは非常に貴重な体験だった。

そうして様々な会社さんとユーザー調査をご一緒する中で、気付いたことがある。それはユーザー調査のやり方が、会社や担当者によって全然違うということだ。調査の設計段階でも、実査時も、結果の分析も、どの行程でも人によって違うのだ。

調査結果をエクセルで分析する人もいれば、miroのホワイトボードで付箋にする人もいたし、いきなりパワポで資料にまとめる人もいた。オンラインでのグループインタビューは難しいという人も、効率的だという人もいた。マーケティングリサーチ的な手法でペルソナを作る人も、UXリサーチの文脈でN=1に拘る人もいた。

面白いなーと思いつつも、定性調査は何故こうなんだろうと思った。これが定量調査だったら、もう少し分析のフレームワークが充実していて、KPI分解やデータ分析に関する書籍が沢山あって、集計したりグラフ化するWebサービスも盛況だ。

定性調査にも、実査の段階までは結構ある。ユーザーインタビューを薦める本やインタビュー方法を解説する本もあるし、インタビュー調査を専門にする調査会社もあるし、インタビュイーとのマッチングサービスもある。でも調査が終わって結果を分析し、知見を取り出してサービスに活かす方法となると、どうだろう。

占いからの脱却

テーブルの上に並べられた調査結果。水晶に手をかざした分析官が目を閉じてうつむき、小声で呪文を唱える。しばらくの静寂が一体を包んだのち、カッと目を見開いて一言「出ました!」と発する。その瞬間、調査結果から知見が生まれ、新サービスのアイデアが生み出される。

何をノイズだと判断して除外し、何を読み取り、何を重視するのか。本当に人それぞれで、まるで占いのようだ。でもビジネスの現場では、他人の行った占いを信じるのは難しい。なぜこの結果から、この施策をやることになったのか。それがわからないから、多くの担当者は前任者の調査結果を鵜呑みにしない。だから知見が組織に蓄積されず、担当者が変わる度に調査をやり直す羽目になってしまう。

Hearableの構想を固めていく中で、実際に会社の中でユーザー調査を担当されているリサーチャーやプロダクトマネージャーの方々にインタビューを行ったところ、そういった課題が次々に出てきた。「属人性」「組織の壁」「分析の難しさ」、この3つの課題は特に頻出した。

製品やサービス開発はチームで行われるし、1つの製品に複数のチームが関わることが一般的だ。開発チームはもちろん、営業部門やマーケティング部門、カスタマーサクセスやサポートの部門など複数のチームが日々顧客の声に対面している。しかし声という定性情報の解釈は人それぞれで、部門毎にそれぞれ別の方法で定性情報を集め、それぞれ別の場所に保管している。

解釈が人によってそれぞれ違うこと自体は、非常に良いことだ。1つの事象にはかならず複数の側面があり、複数の解釈が存在する方が取れる行動の選択肢が広がる。問題は、客観と主観が分離されずにごちゃまぜになってしまうことや、解釈の元になったソースを参照できないことだ。解釈の根拠が示されず、パワポのプレゼン資料で提示された結果だけが存在するような状態では、複数の部署が同じ顧客像を共有することは難しい。

Hearableが目指す未来

こうした組織の壁や属人性を超える方法を検討する中で、Hearableの参考にしたのは研究分野で用いられる手法だった。質的研究法や質的分析法と呼ばれ、様々な研究方法が存在している。その中でもQDAソフトという専用のソフトウェアを用いて、コーディングと呼ばれるメタ情報の付与を行い、様々な角度から調査結果の文字情報を分析する手法を参考にした。

しかし製品開発の現場でQDAソフトが使われているのを見たことがないし、質的研究法や質的分析法が言及されるケースも希だ。QDAソフトは学術用途であるが故に非常に複雑で操作が難しく、高価なスタンドアローンのソフトウェアでオンラインでのコラボレーションに向いていない点も普及の妨げになっているのだろう。

Hearableは質的分析法を参考に、元になったソースからファクトを抜き出して集め、タグ付けして分析可能な状態にし、そこから得た知見をインサイトとして、相互に参照可能な状態で蓄積するという基本設計を取り入れることにした。

顧客の声という製品の一番根源的なソースに、いつでも誰もが立ち返られる状態にする。そして複数の解釈を許容して、複数の人が部門を横断してユーザー調査やその結果の分析に参加できるようにする。得られた知見はその根拠や分析手法と共に、組織に蓄積されて引き継がれる。Hearableはそんな理想を実現するサービスにしたい。

安定か、挑戦か

サービスの構想が固まり、資料にまとめて再度リサーチャーやプロダクトマネージャーの方々にインタビューを行ったところ非常に良い反応をいただいて、実際にプロダクトとしての開発を始めた。副業で空いた時間に仕事をお願いする形で昔一緒に仕事をしたエンジニアのninjinkunにも加わってもらって、4人のチームになった。まずは最小限の機能からということで、年内を目処にMVPの開発を進めている。

プロダクトの次は、会社をどうするか考えた。去年設立した二宮企画株式会社で新規事業としてやるのか、それとも新しい会社を作るのか。前者であれば企画の仕事で得た売上をHearableの開発費に回せるので細々とであればランウェイを長く保てる。後者であれば共同創業者である村田君との出資比率が明確でわかりやすく、事業が1つなので資金調達時に投資を受けやすいメリットがある。

安定か、挑戦か。村田君と話し合い、ファイナンスの本を読み、税理士さんに相談し、VCの方に相談する機会もいただいて、後者を選んだ。決め手になったのは、Hearableの「聞こえる化」するというビジョンを本気で突き詰めてみたいと思ったからだ。

今年の9月、二宮企画で受けているお客さんの仕事で京都に行く機会があって、たまたまはてな創業者の近藤さんがやっている Podcast に出演させてもらった。その時に1時間ほどかけて、自分の人生を学生時代くらいから振り返って、なんで今の仕事をやっているのか、自分の得意なことは何なのかを話した。そして最後に近藤さんに聞かれて、初めて自分にとって幸せとは何かを言語化した。

open.spotify.com

「人から必要とされること」それが自分の出した答えだった。学生時代にいじめられっ子だった自分が、人から必要とされたいと願い、人の顔色を伺って生き、それが任天堂さんや集英社さんやKADOKAWAさんたちの思いを汲んだ開発につながり、独立して今にいたったと、そういう話をした。

そういう自分にとっての幸せが、クライアントやユーザーやチームメンバーの心の中の秘められた声を「聞こえる化」して、その声に応えることにつながる。自分の内的なモチベーションが、ビジョンに直結している。それが一番いいことなんじゃないかと思った。

そんなビジョンを見つけられたのは、村田君のおかげだ。こんな幸運はめったに訪れないだろう。だからリスクを取ってでも、この領域に挑戦しよう。そう思って新しく会社を作ることにした。

声を聞かせてください

そんな経緯で会社という器ができて、作りたいプロダクトの方向性も固まりました。さあ、ここからが本番です。実際に顧客の声を聞きながら、顧客のニーズにプロダクトをフィットさせていきます。自分達が本当に顧客の声を「聞こえる化」できるのか。明日から早速、最初の顧客を探し始めます。

Hearableは現在絶賛開発中で、年内には最小限の機能を盛り込んだ触れるプロダクトができる予定です。最初は本当に最小限なので、使っていただける会社さんと一緒にプロダクトを作っていきたいと考えています。どういう形であれば現在の業務フローにフィットするのか、ファクトの蓄積ができた先にどう活用できると良いのか、一緒に設計させてください。

特に以下のような課題を感じている方は、ぜひ一度お話させてください。

  1. ユーザー調査は行っているが、調査結果が開発チームで閉じていて部門間での温度差に課題を感じている方
  2. 調査結果の分析方法が担当者ごとにバラバラで、チームでの分析に課題を感じている方
  3. 過去の調査の分析結果を見ても何故その結論に至ったのか判らないなど、事実と解釈の分離に課題を感じている方

まだプロダクトは無いので、まずは今作っているプロダクトの詳細とその先のビジョンをご説明して皆様の課題を伺った上で、Hearableがどう皆様の課題解決に貢献できそうかご提案させていただければと思います。Hearableに少しでもご興味のある方は、ぜひ以下のメールアドレスやTwitterのDM等でご連絡ください。よろしくお願いします!

info@hearable.jp

2022/11/21 追記

気軽にお話しできる場としてMeetyでカジュアル面談を作成しました。Hearableについて、またUXリサーチ全般についてまずはこちらでお話しましょう。お気軽にどうぞ!

meety.net