KPI設計から始める定量調査

Webディレクター解体アドベントカレンダー6日目の記事です。前回の記事で調査・分析はカオスなデータの単純化であり、人間が理解可能な意味付けを行うことであると書きました。今日は定量調査の中でも、データに意味を見出す方法について説明します。

データに意味を見出す

私は小さい頃から勉強ができなくて、その中でも特に算数が嫌いでした。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、40過ぎた今でも数字が苦手です。当然定量調査も苦手です。

定量調査は非常に専門性の高い分野で、大きな会社だとデータアナリストという専門職の方がいてエンジニアリングも駆使しながら高度な分析を行なっています。文系の自分が付け焼き刃で太刀打ちできるような領域じゃありません。それでもWebサービスのディレクションや企画を行なっていく上で、避けては通れない道です。データ分析の専門家には敵わなくても、データの見方やその意味するところは知っておく必要があります。

代表的なフレームワーク

誰でも簡単にデータに意味を見出せるようにと、先人たちがよくある形をフレームワークに落とし込んだモデルが複数存在しています。まずはツリー構造から紹介します。

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例えばある週にPVが増えたとして、まずUUが増えたのか(サイトに訪れる人の人数が増えたのか)PV/UUが増えたのか(1人の人が見るページ数が増えたのか)を見てみます。UUが増えている場合、新規ユーザーが増えたのか、継続ユーザーが増えたのか分解し、新規ユーザーが増えている場合はどの流入元が増えたのか(検索なのかソーシャルなのかリファラルなのかダイレクトなのか)を見ていきます。更にソーシャルやリファラルだったらどのサービスからの流入かを見て、更にランディングページを調べてみます。そうすると「ああこの前の週末にTwitterでこの記事がバズって流入が増えたからPVが増えたんだな」ということがわかるわけです。こうして只の数値の上昇という現象を、人間が理解可能な事象に分解していくわけです。

他には、ファネルと呼ばれる形もよく使われます。ファネルというのは漏斗のことで、だんだんと口が狭まっていく形から名付けられました。ECサイトでの商品の購入や、会員制サービスでの登録数をモデル化するときなんかによく出てきます。

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例えばなかなか会員登録数が増えない時に、どのステップがボトルネックになっているか知り、改善効率の良い場所を探すことができます。会員登録ボタンまでは押してもらえるんだけど、その先の確認メール送信まで行ってないからその部分のUIを見直そうとか、施策に活かせるわけですね。

こうしたツリーやファネルのような単純なモデルに加えて、有機的に絡まるユーザー行動に近づけたもう少し複雑なフレームワークもあります。例えばこれは何年か前に流行ったAARRRというモデルです。

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AARRRはそれぞれ、Acquisition(獲得)、Activation(活性化)、Retention(継続)、Referral(紹介)、Revenue(収益)の頭文字を繋げたものです。だいぶ流行ったからいろんな記事で解説されているので、詳しく知りたい方はAARRRで検索してみてください。ポイントは、ユーザー行動をモデル化したものだということです。

  • Acquisition:どの経路からどういうユーザーを獲得してくるか
  • Activation:新規で流入してきたユーザーに、最初にどんな良い体験をしてもらうか
  • Retention:一度良い体験をしたユーザーに、何をきっかけに2度目3度目の訪問をしてもらうか
  • Referral:定着したユーザーに友達に紹介してもらう等、どうやって新しいユーザーを獲得するか
  • Revenue:定着したユーザーに、どうやってお金を払ってもらうか

ユーザーの獲得から定着、そして収益化まで、ユーザー体験の全ての流れの中からポイントを5つに絞って計測するという形です。ユーザー行動を一つの行動フローに単純化してモデルにして、それぞれのポイントの数値を計測することで、サービスのどこに課題があるかを発見したり、何が理由で数値が増減しているのかを理解できるようにしています。

KPI設計でユーザー行動をモデル化する

こうしたユーザー行動のモデルは、当然サービスによって異なります。AARRRは友だち招待機能のあるSNSなどのサービス形態にフィットするような形で設計されていますが、例えばこれがECサイトやオウンドメディアのようなサービスの場合はうまくはまりません。サービスによってユーザー行動の設計は異なるので、そのユーザー行動にあわせたモデルで分解していく必要があります。例えばこれは、ユーザーが記事を書いて投稿するようなUGC系のサービスを想定したモデルのイメージです。

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まず右半分のPVからピラミッド状に生えているのはツリー構造になっています。そして一番下の右から左に流れるライン、新規回遊からユーザー登録、ログインユーザーの再訪があって、いいねというアクションをしてもらうまでのコンバージョン。ここはファネル構造になっています。こういう感じで複数のフレームワークを組み合わせるのもありでしょう。自分のサービスの体験に合わせてモデル化していきます。こうして一連のユーザー体験の要所要所を数字に置きかえることで、数字に意味を持たせます。そうすると、どこを改善すべきかが段々とわかってくるのです。

モデル化ができたら、この中でKPIとして日々数値の変化をトラッキングして改善していくものを選びます。KPIを選ぶ時のポイントは、ユーザー行動モデルの中で肝となる箇所から選ぶことと、計測可能で干渉可能な数値を選ぶことです。さらっと書きましたけど、これが結構難しいんです。ここが大事だと思ってKPIを定めても、実は施策を打っても全然響かずに、全く別の要素で数字が変動するということもあります。

わかりやすい例だとPV/UUです。検索流入が結構あるサービスの場合、検索流入が増えると新規UUが増えます。検索からやってくる新規ユーザーはPV/UUが低いんですね。そうすると、全体のPV/UUは検索流入が多い時は下がり、少ない時は上がってしまう。そうなると回遊改善施策の効果云々ではなく、検索エンジンのロジックによって左右されてしまいます。だから回遊をトラッキングするためのKPIを選ぶなら、新規ユーザーと継続ユーザーの数値を分けて計測してより注力したい方にします。そんな風に、なるべく実際の施策や開発方針に生かしやすいものをKPIとして選ぶのが良いと思います。

定量調査は、突き詰めるとデータ分析という統計学などを中心とした数学的な専門知識の必要な分野です。それでも、なるべく誰もが理解ができるようにユーザー行動を抽象化して1つの行動モデルに落とし込むことで、開発チーム全体で理解可能な追いかけられる数値にできます。大量のデータを前に闇雲に計測するのではなく、まずユーザー行動を分解して計測してみる。それで施策に活かしにくかったり、行動モデルに合わなかったらKPIをまた別の数値に変更する。そうした試行錯誤を繰り返す過程がまた、ユーザー理解に一歩ずつ近付く道になると思います。