最近は、週末が近づいてくると憂鬱になる。長い距離、山を走らないといけないからだ。自分が組んだトレーニングスケジュールに沿ってるだけだから、嫌ならやらなきゃいいのだけど、今年もUTMFにエントリーしてしまったのだから仕方無い。しかも今週は50km走という、レース本番までに組んだスケジュールの中で2番目に長い距離のメニューだった。
50kmも山の中を走るとなると、少なく見積もっても10時間以上はかかる。夜明けと共にスタートしても、ゴールは日没との勝負になるだろう。
週末が近づいてきた水曜の夜、ああ嫌だな憂鬱だなとグチグチ呟いていたら、妻が旅行を絡めてみたらどうかと言った。スタート地点近くの旅館に泊まって次の日の朝に家まで走るのはどうかと言う。それはいいアイデアだけど、せっかく旅館に泊まるなら朝ご飯を食べたい。旅館の朝食を食べずに帰るのはさすがにもったいない。そうだ、ゴール地点を旅館にして、そこまで走って行けばいいのでは。
ということで、走って唐津へ行くことにした。
家から背振山地の中央に位置する金山まで行き、そこから背振をひたすら西へと縦走して、山を抜けたところにある旅館まで行くルートだ。家から金山の登山口まではロードだが、そこからはほとんどがトレイルでアップダウンも多く、鍛えるにはもってこいだ。トレーニングに向きすぎて、しんどいということに目をつぶれば理想的なコースと言える。
出発は朝6時半。日の出前で真っ暗だが、家を出て早良街道を南下している間に夜が明けた。金山の登山口に着いた頃にはすっかり明るくなり、いよいよ唐津まで続くトレイルの旅が始まった。
コースプロファイル的には、最初にドカンと登って金山、井原山、雷山と背振山地の中でも大きな山が続くが、西へ進むにつれて標高が下がっていく前半勝負のコースに見えた。
実際、雷山を越える頃までは順調で、後はもう大きな山は羽金山くらい。予定よりも早く着くかもなと高をくくっていた。
しかし後半も細かなアップダウンが続き、なかなか走れない。しかも山頂と山頂をそのまま繋げたような直登直下のコース取りが多く、とにかくしんどい。前半は平均キロ12分ペースで進んでいたものの、次第にキロ13分を超えるようになり、キロ14分台が近づいてきた。
ゼエゼエ言いながら浮嶽への急登を登っていると、妻から旅館にチェックインしたとLINEで連絡が入った。夕食の時間は18時だと言う。
あと2時間。10時間以上走ってきて、泥と汗にまみれた状態で夕食の席に着く訳にはいかない。風呂に入りたい。そう考えると17時半には到着する必要がある。1時間半で残り10キロ。ギリギリのラインだ。
浮嶽の山頂を超え、日が暮れ始めて薄暗くなってきたトレイルの中を必死で走った。十坊山山頂手前の分岐で、唐津方面に折れて林道に出る。久しぶりの舗装路でスピードをあげて下り続けると、谷口の集落が見えた。
やっと背振山地を抜けた。あとは旅館のある海岸まで約3km。時間は17時を過ぎ、キロ6分で進んでもギリギリだ。みかんのビニールハウスが並ぶ畑の真ん中を何とか止まらずに走りきり、そして海岸が見えてきた。
17時32分、浜崎海岸でゴール。GPSで僕の進捗を確認していた妻が部屋から降りてきて、出迎えてくれた。家からドアtoドアで11時間2分かかった道のりを、妻は車で50分だったらしい。車はすごいねなんて言いながら部屋に案内してもらって、急いで大浴場で汗を流した。
そして待望の夕食。山を走り続けた体で食べるご飯は格別だった。呼子のイカと初物の白魚と鮑と佐賀牛。佐賀の味覚を堪能した。ゴールを唐津にして正解だった。カラカラになった体には糖類も脂質もタンパク質もアルコールもよく染み渡る。たらふく食べて飲んで、朝までぐっすり眠った。
走って旅行に行くとご飯がうまい。これはちょっとした発明ではないか。またどこかご飯のおいしいところへ、家から走って行きたい。