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歯医者

歯医者に行きたくない。40歳を過ぎてもまだ、そんな小学生みたいなことを言っている。あれやこれやと理由をつけて、ここ5年以上歯医者に近寄らなかった。

妻が歯医者に行った方がいいよと助言してくれても「リリースまでは忙しいから時間が取れない」と言い訳をして先延ばしにした。リリース後は「リリース直後で忙しいから」と言い、次の月は「新しい企画始まったから」と言い、その次は「評価シーズンだから」と、新しい言い訳を探しては次々に渡り歩いた。

しかしちょうど評価が終わった頃、言い訳が全く見つからないスイートスポットが出現した。本当にその時だけで、次の日には新しい仕事が始まっていたと思う。勿論、妻は見逃さなかった。

「今、予約の電話をかけて」

仕事が始まる直前の数分の空き時間、狙いすましたようにピンポイントで突いてきた。必死に思いを巡らし、言い訳を探してみるが見つからない。口調は優しいものの、有無を言わせない凄みを感じる。ここは袋小路の突き当たりだ。完全に追い詰められている。そう悟った瞬間、観念して歯医者に予約の電話をかけた。

あれから1ヶ月。週に1度のペースで通い、今日が4度目の歯医者だった。虫歯の治療と並行して、歯周病の治療を進めている。今日は虫歯を削って詰め物をして、歯茎の中の歯石を取った。

最初に歯茎の中の歯石を取ると聞いた時は戦慄した。歯茎の中ってどういうことだと。歯茎を一回剥がさないと取れないんじゃないか。そんなのめちゃくちゃに痛そうだ。軽く麻酔をかけてやると言われて尚更怖くなった。歯茎をメリメリと剥がされるイメージが頭から離れず、歯医者に向かう足取りは重く憂鬱だった。

実際は、歯茎のキワの部分をガリガリと削るくらいで全く痛くなかった。舌で触れてみると歯石が取れて歯がツルツルになっている。行ってみれば、そんなに悪くない。それはわかってるのだ。自分が勝手に抱いた歯医者のイメージをどう乗り越えるのか。

歯医者に通うということは、自分との戦いそのものである。