この前の日曜日、七尾旅人という歌手のライブに行きました。大阪の千日前にある、味園ビルのユニバースという昔キャバレーだったところが会場で、嫁と2人で行きました。僕たち夫婦は音楽の趣味が合わないので、いつも自分の行きたいライブのチケットを2枚分買って、相手に渡して一緒に行きます。行きたい方がチケット代を負担するシステムです。今回は僕が行きたい方でした。
ライブが始まると、4人のメンバーが順番に出てきて1人ずつ歌を歌います。みんな七尾旅人ですと名乗ってから歌うのです。3番目の七尾旅人は、僕が好きな石橋英子という人に顔も声も似ていました。そして最後に、ギターを抱えた七尾旅人が出てきて、歌を歌いました。
しばらく歌を聞いていたのですが、途中から七尾旅人が、だんだん愚痴を言い始めました。グッドミュージックがクソだとか、Twitterでクソリプしてくるやつの話とか、著作権について上から目線で講釈たれてくるやつの話とかです。曲と曲の合間に愚痴が挟まる感じだったのが、だんだん愚痴と愚痴の間に曲が挟まる感じになってきました。僕も最初は、何でライブで愚痴を聞かされ続けるんだろうと戸惑っていましたが、だんだん何で戸惑うのかわからなくなってきました。
なぜライブに行って、ステージの上にいる人が愚痴を言いだしたら戸惑うのでしょうか? 音楽を聞きに来たのに、愚痴を聞かされるから? 音楽と愚痴はどう違うの? 音楽を聞きに行くとはいったい何なの? 愚痴もノイズも咳払いもミステイクもない音楽が聞きたければ、CDを聞けばいいんじゃないの? わざわざ嫁のチケット代を負担して、電車乗り継いで大阪までライブに来たのは、録音された過去の音楽以上のものを求めるからではないの? 録音された音楽以上のものって何だろう? ライブって言うからには、それは生の何かで、愚痴って割と生な感じがする? そうだ、愚痴こそがライブの醍醐味なのだ!!
なんぼ何でもそこまで思わないけど、でもだんだん面白くなってきました。昔ファスビンダーの映画で、90分間ひたすら家族の愚痴とかを聞かされ続けた男が最後に嫁や子供を撲殺して自殺するっていう映画があったんですが、それ思い出しました。ライブ中のMCで七尾旅人も言ってたんですが「わーいハッピー元気でた!明日からがんばろっと☆彡」みたいなの求めてるんだったら七尾旅人とか行かないわけです。シネコンでやってるハッピーエンドのトレンディ映画じゃなくて、四谷の汚いビルの狭い映写室でやってるファスビンダーの映画行くみたいに。
そんなわけで、だんだんノってきました。僕も周りのお客さんも、七尾旅人が「ほんとクソだわ」って言う度に拍手喝采です。東京とかマジでクソだし! 大阪万歳! そして最後にローリンローリン! 回り続ける! もうみんな総立ち! 音楽サイコー!!!
割れんばりの拍手の中、4人の七尾旅人がみんなで手をつなぎ、結んだ手と手を大きく上げてから深々とお辞儀します。興奮した観客の歓声と拍手の嵐の中、4人の七尾旅人はステージを去りました。それでも鳴り止まない拍手。やがて拍手は一定のリズムに収束し、お約束のアンコールに変わります。
そして、アンコールに応えて出てきた1人の七尾旅人。おもむろにステージ中央に陣取って、彼の口から放たれたのは...愚痴でした。もうええわ! どうもありがとうございました。