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戦略を考える

Webディレクター解体アドベントカレンダー11日目の記事です。企画編の最後は、単発の企画だけでは実現の難しい大きな目的を達成するために必要な戦略について書きます。

競合と戦う

例えばあなたが「PVで10倍以上の差がある巨大な競合サービスに勝つ企画を考えろ」と言われたらどうするでしょうか。そんな無茶なって感じですよね。そんな企画の1つや2つ考えただけで覆るかよと。

だけど実際Webサービスの企画をする時に、立ち上げ時であれグロース時であれ、どう競合サービスと戦うかを考えなければならないケースは少なくありません。特にWebサービスの場合はネットワーク外部性が働くものが多く、同じサービスドメインの中で生き残ることができるサービスは限られるからです。

そういう時に必要になるのが全体を束ねる大きな方針、戦略です。競争を避けるのか、それとも正面から競争を挑むのか、如何に違いを生み出し、如何に生き残っていくのか。最初に方針が必要になります。サービス開発の大きな方針、その呼び方は様々ですが戦略という軍事用語が使われることが多い。

国家間の戦争や競合製品との競争の中で長い歴史をかけて多くの人々が様々な戦略を練り、戦略について語り、後世に語り継いできました。だから戦略について書かれた記事や書籍は沢山あり名著も多い。その中から2つ、言葉の定義と戦略の良し悪しについて書かれたものを2つ紹介します。

「戦略、作戦、戦術そして兵站」

戦略、作戦、戦術そして兵站「経営者とは、肩書きや地位を指す言葉ではなく、能力を指す言葉だ」-清水亮さんの神ブログの再編再掲|元Google/アフターデジタル 尾原のITビジネスの原理実践編|note

この記事は元々2012年に清水さんという方がはてなダイアリーに書かれていた記事の再掲です。元々が軍事用語である戦略という言葉の定義として、戦略とよく混同される作戦と戦術、そして戦略を実行するときに不可欠な兵站について説明されたものです。詳しくは上記の記事を読んでいただけると理解が深まりますが、ここに図表に記載された説明を引用します。

  • 戦略
    • 競争を行う際の方針と目的、方向性
  • 作戦
    • 戦略を実現するための具体的方法や計画
  • 戦術
    • 作戦を実行する際に必要となる戦い方、スキル
  • 兵站
    • 戦略全体を支える仕組み f:id:nmy:20201210222625p:plain

戦略と戦術はよく混同されますが、マクロな全体の方針が戦略で、ミクロな現場のオペレーションが戦略です。そして複数の戦術を束ねて、戦略を実現するための計画が作戦というわけです。兵站はそれらを支えるための人員だったり、開発費用だったり、必要な設備などのハード面も含まれます。

自分が戦略と呼んでいるものが本当に戦略になっているのかを点検するときに、よくこの概念を思い出します。自分は戦略だと思って考えていたものが、個別の戦術に過ぎなかったり、せいぜい作戦止まりだったりしないか、たまに振り返って意識してみると道に迷いにくくなると思います。

「良い戦略、悪い戦略」

戦術でも作戦でもなく、マクロにサービス全体の方針を考えているという時でも落とし穴は存在します。それは悪い戦略の罠にはまっている時です。戦略関連本の中でも有名な「良い戦略、悪い戦略」という本には、最初にまず悪い戦略の特徴がアンチパターンとして挙げられています。

  • 空疎である
    • 内容がない。専門用語が並んでてそれっぽいけど普通のことしか言ってない。ミッションやビジョンと混同している。
  • 重大な問題に取り組まない
    • 1番の問題を見てみぬふりをする。目の前の成果の出やすい課題を解決しようとする。調査分析が足りてない。
  • 目標を戦略と取り違えている
    • 「120%成長」「MAUを伸ばします」「お客様に愛されるサービス」など目標になっているもの。どうなりたいかの希望だけあって道筋がない。
  • まちがった戦略目標を掲げる
    • 重大な問題とは無関係である。実行不可能である。

特に3つ目の目標になっちゃってるやつ。全社員が集まった機会に、サービスの方針として誇らしげに掲げた思い出が蘇ってきました。今思い返すと恥ずかしさのあまり身悶えします。他にもそれっぽいけど中身がないやつとか、どこかで見た覚えのある特徴がいくつかあります。

逆に良い戦略の基本構造として挙げられているのは「診断」に基づいていいること、課題にどう取り組むかの「基本方針」があること、具体的な「行動」に繋がることです。ここでも最初に診断が挙げられています。企画の前提に調査・分析があったように、正しい現状認識とその分析がなければ良い戦略は立てられません。良い企画と同じです。

戦略を考える時に気を付けていること

実際、戦略は大きな企画だと思っています。スコープが大きくなっただけで、何をするか決めることに変わりはありません。最初に調査・分析が必須なのも同様です。

ただ戦略ならではの考慮しないといけないポイントもあります。ここでは私が戦略を考える時に特に気をつけていることを3つ挙げてみます。

  • 対競合戦略になっているか
    • 戦略のほとんどは対競合戦略である。対競合戦略ではない場合、本当にそれで良いのか何度も疑った方がいい。
    • まだ競合の存在しないブルーオーシャンに漕ぎ出す場合でも、後から追いつかれないための戦略が必要になる。
    • 対競合戦略になっているか、なぜ競合はその戦略を取っていないのか論理的に説明できる必要がある。
  • ストーリーになっているか
    • 数百文字程度の短文に落とし込んでみる。エレベーターピッチとも言う。
    • 他人に口頭で論理的に説明ができるかどうか。
    • なぜ?に答えられるか。誰もが考えつく疑問に答えられなかったら話にならない。
  • やらないことを決める
    • 成功するか不安だとどうしてもあれもこれもと作戦の数を増やしがち。
    • 保険のために作戦を増やして得られる安心感に抗うのは難しい。
    • 明示的にあらかじめ、やらないことや諦めることを決めておく。

「コア&モア戦略」

戦略と言うのは基本的に対競合戦略なので外に明かすことができません。ここまで書いてきたことは概念的で1つも具体例がない。これまでに考えた戦略の例を挙げながら説明できればもう少しわかりやすいと思うのですが、歯痒いところです。それでも、これまでに考えた戦略を振り返ってみて共通する要素を探してみると、結局コア&モア戦略になっていることが多かったです。

既存のユーザーを大事にしながら、どう新規のユーザーを獲得していくのか。自社のユーザーを囲い込みながら、どう競合サービスからスイッチしてもらうのか。Webサービスは多くの場合ネットワーク外部性が強く働くから対競合戦略を考えざるを得ない。そうすると自然にコアを育てながらモアを獲得していくという形態になることが多くなる。

常連客(コア)に来店頻度を高めてもらいながら、女性客や子ども連れなど新しい客層(モア)を獲得する「コア&モア戦略」を掲げた。 https://toyokeizai.net/articles/-/332729

これは吉野家の例ですが、Webサービスの戦略を考える上でも参考になる考え方が沢山あります。対競合戦略になっていて、ストーリーとしても美しい。語られる戦略はだいたい成功した戦略だからかもしれませんが、優れた戦略はいつも美しい物語を読んでいるようです。いつしかそんな、不朽の名作を書いてみたいものです。